”ショートケーキ”な本

 

“ショートケーキ”って、ケーキ屋における本題のようなものではないでしょうか。
あまりにも代表的なテーマだからこそ、真っ向勝負を挑むことになるもの。その根本を問われるようなものです。

 

焼き菓子の”クッキー”、書道家の”永”、革職人の”財布”、作詞における”プロポーズ”etc――

 

では、小説は?

 

それは、「書くこと」と「読むこと」です。

本作品は、この主題に真正面からがっぷり四つで取り組んだ、どちらの側面から捉えても体力の要る作品です。
正直言って、この作品は物語として読むにはノイズが多いです。
登場人物が動こうとするたび、果たして必要なのか怪しい情報が都度挟まれたり、句点の少なさが気になったり、改行や段落分けが極端に少なかったりするのです。

 

なぜそんなことになっているのか。

 

恐らく、あろうことか「読むこと」を主体としてきた主人公の視点で、「書くこと」を描こうとしているからです。
これが如何にえらいことになっているかというと、「読むこと」は得意だが「書くこと」はできない主人公の腹の中を、アウトプットがうまく整理されていないずぐずぐのまま描写することで、「読むこと」によって培ったものそのものを表現しているような状態です。

 

そして更に、それを「書く」作者と、「読む」自分が加わる。
x軸とy軸は合っているから、一周すれば元に戻ると思っていたのに、実はz軸がずれているせいで、気づけば螺旋階段のようにどこまでも深みに潜っていってしまう。
そんな、とんでもない導き方をする仕組みが出来上がっています。

 

それと、もう一つ不思議な運命を感じたのは、この作品の副題に「宇宙」があることです。

 

 店長は、天文学が苦手です。理由は「怖いから」です。
中学2年生の自転と公転の授業で、自分がいずれ宇宙に溶け出てしまう恐怖と目が合ったからです。

 

それが、店長が初めて意識して小説を読むことにした大きな理由でした。

 

小説を読むことで、自動的に宇宙から180度目が背けられると、本能的に信じて疑わなかった。
読むことで、物語を蓄えることで、自分の生死にもいずれ納得がいくと思っていたからです。

 

その自己流で編み出したと思っていた突拍子のない防御システムが、まさか自然の理で、小説を通して宇宙と対面することになるとは思ってもみませんでした。
この小説は、宇宙と小説がどう繋がっているのか――店長が宇宙から小説へ逃げ込んだ、その当然とも言える仕組みそのものに触れていたのです。

 

まだ納得のいかない人生ですが、自分だけの問題だと思っていた宇宙と小説の繋がりが、こうして「書かれていたこと」、そしてそれを「読めたこと」に、痛く救われた作品でした。

 

ということで、今回紹介した本は『小説』(野崎 まど)でした。

是非紙の単行本を手に取って、ページが閉じないよう、机の上でねじ伏せるように組み付きながら読んでほしいです。
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